白地に藍一色で描かれた食器・・・どこの家庭でも食器棚にあるアイテムではないでしょうか。食器の定番とも言えるもので、どんな料理にも合うので使いやすく多くの人に好まれています。特に夏の涼しげな食卓を演出するのには欠かせないですね。この『白地に藍の器』は日本はもちろんのこと、中国やベトナムなどアジア諸国、イタリア、フランス、ポルトガルなどヨーロッパの様々な国で、古くから独自のものが作られ今日まで親しまれています。

 日本でこれらは『染付け』と呼ばれ、藍一色で描かれた食器の総称になっています。正式には、白地に呉須=コバルトで下絵付けをし透明な釉薬をかけて焼成した磁器を染め付けと呼ぶのですが、それ以外のものでも白地に藍であれば染付けと称していることもあるようです。この染付けのルーツは中国で宋時代に始まったと言われていますが、発展したのは元時代の中頃の景徳鎮です。中国青華、もしくは釉裏青と呼ばれていました。日本へ入って来たのは室町時代という説がありますが、文献として残っているのはもう少し後の1603年、江戸の初期の伊万里焼が始まりです。『染付け』と呼ばれるようになった説はいくつかありますが、有力説は、食器の風合いがその頃(江戸初期)日本で盛んにつくられていた藍で染めた麻の布(=染付け)に似ていたから、というものです。

 今でも伊万里や瀬戸など日本の各地で作られている染付けは愛好家も多く、また江戸時代に作られた染付けを収集しているという方も少なくないようです。私のお知り合いの方も染め付けの蕎麦猪口を集められていて、古伊万里から現代のものまでかなりの数をお持ちです。私は収集家とまではいきませんが、染付け愛好家ではあります。釉の下で生地にとけ込む呉須の風合い、しっとりとしながら白地に藍がきりりと浮きだった器に魅せられた一人です。伊万里は、絵付けや器の形が印象的なものを少しずつ集め、普段使いには砥部焼の染付けを愛用しています。

中国のホタル焼き(左)と 砥部焼(右)

 『白地にブルーの器』はヨーロッパでも多く見られ、そのルーツをたどれば最終的には中国に行き着きますが、日本の染付けほど中国青華の印象を残してはいません。それぞれが独自の研究で生地を開発し、個性あるデザインを生み出しています。

 ヨーロッパの『白地にブルー』で日本でも人気が高いのはデンマークのロイヤルコペンハーゲン。中でもブルーフルーテッドのシリーズは根強いファンが多いようです。新しいところでは、昨年2021年に発表された、デザインデュオ、ガムフラテージとのコラボの新シリーズ「ロイヤルクリーチャー」も人気です。こちらは、海の生き物と伝統的なモチーフのハーフレースとの組み合わせのユニークな作品ですが、ブルーで統一することで、他のデザインとの組み合わせもしやすく、可愛すぎない印象です。

 ロイヤルコペンハーゲンは1775年に薬剤商フランツ・ヘンリック・ミューラーによって開窯し、その後王室所有の窯となったことで高い技術と品質を保ちました。1868年に民間の窯になりましたが、それからも今日に至るまで高い水準を保っています。以前、工場を見学させていただき、そこで働く方々からいろいろお話を伺うことが出来ました。マエストロと呼ばれる絵付け師の品質へのこだわりの強さ、絵付けの技術に対する誇りの高さに深く感動したことを憶えています。

 このロイヤルコペンハーゲンより早く、1709年に開窯したのがドイツ、マイセン。翌1710年にはドレスデンにて王立ザクセン磁器工場を設立、これが現在の国立マイセン磁器製造所の前身です。マイセンのブルーオニオン、ブルーオーキッドも人気のシリーズです。他にもフランスのリモージュ、オランダのロイヤルデルフトなど各国で品質の高い白地にブルーの食器が生産されています。

 では、イタリアの『白地にブルー』はどんなものが際立っているかと言うと、海の街に多くみられるようです。ルネサンスと共に花開いたと言われるイタリアのマヨリカ焼は鮮やかでカラフルな印象が強いですが、ジェノヴァ、ナポリ、ヴェネツィアには16~17世紀からコバルト(藍)の単彩の陶器が多く産出されています。これらの地域の特徴はいずれも当時海運国として栄え、海の街であり、窯を開ける財力があったと言う共通点があります。中でもリグーリア州の、ジェノヴァ、サヴォーナ、アルビッソラ・マリーナではリグーリア様式として1つのデザイン様式を確立させ、藍一色で描かれた陶器が今も生産されています。リグーリアへ旅したら、そんな陶器をぜひご欄になってみて下さい。

青の単彩で描かれた様式は、リグーリア様式またはサヴォーナ風とも呼ばれています。デザインとしては、メダイヨンと呼ばれる中央部分には動物や人物、帆船などの具象物を描き、その周りを植物をモチーフにした模様が取り囲むような様式が特徴です。

 ヨーロッパの『白地にブルー』で私が気に入っているのはジアン社の 0iseau Bleu(オワゾ・ブルー) のシリーズ。これは、銅板による転写を使うことで柔らかい風合いのブルーを表現しています。このシリーズを生み出した女性デザイナーは難破船から引き上げられた食器のブルーをイメージしたそうです。長い年月潮にさらされて薄くなった染付けの色にインスピレーションを感じたと言っています。葉山の海でもビーチコーミングを楽しんでいると、海にさらされたと思われる陶磁器の破片に出会えることがあります。懐かしような、なんとも落ち着く色合いですね。

 ジアンは1821年フランス、ロワール河岸に誕生したファイアンス焼きの陶器工房です。2005年に研修旅行の一環で生徒さん方と共に本社工場を訪問しましたが、整然とした内部でスタッフがきびきびと動き、分業制の中でそれぞれが自分の作業に強いプロ意識を持っていました。特にこのブルーには強いこだわりを持っていて、案内をしてくださった女性のディレクターの方は『ジアンブルー』がフランスではとても愛されているので、それを生産することが嬉しいと話されていました。

ジアン本社に隣接するアウトレットショップにて。手前が0iseau Bleu(オワゾ・ブルー) のシリーズ

 白地に藍の器はいたってシンプルですが、それだけにデザインや白さ、青さの特徴が顕著に現れます。見れば見るほど、その背景を知れば知るほど興味深い世界だと思います。暑い日は食欲もなくなりがちですが、お気に入りの染付けで涼しげな食卓を演出して、食事の時間を楽しまれてください。